作品紹介

17世紀はオランダ黄金時代といわれています。この時代、オランダは歴史上稀にみる発展の最中にありました。1560年代に始まるスペイン支配からの独立戦争に伴い経済が急成長するとともに、1602年に世界に先駆けて設立された株式会社、オランダ東インド会社の貿易網を通して世界に名だたる強国、富裕国として発展していきます。17世紀はまた、新たな芸術文化が発展し、絵画の分野においても多くの優れた画家を輩出し数多くの傑作が生まれるという、特別な時代でした。絵画は一般市民が手に入るような大きさや価格でも出回っていました。当時の海外からの訪問者は、オランダのごく一般の家庭にさえも多くの絵が飾られているのに驚いたといいます。この時代に活躍した画家たちの中には、「光の画家」として知られるデルフト出身のヨハネス・フェルメール(1632-1675)やアムステルダムで名声を手にし、独特な発想、技法と構図で人気を得たレンブラント・ファン・レイン(1606-1669)など、今日私たちがよく耳にする名があります。彼らの作品は400年近く時を経た今でも色褪せることなく、私たちに感銘を与えてくれます。本展覧会では、60点の作品を通して、オランダ黄金時代と当時活躍した画家たちを紹介します。フェルメール、レンブラントと並び、フランス・ハルス、ヤン・ステーン、ピーテル・デ・ホーホ(京都、東京会場のみの出品)など、黄金時代を彩った様々な画家たちの作品によって、当時の文化と人々の生活が私たちの目の前によみがえります。ニューヨークのメトロポリタン美術館、ロンドン・ナショナル・ギャラリー、アムステルダム国立美術館を中心に個人蔵の作品も加え60点を一堂に展示します。中でもメトロポリタン美術館の傑作、フェルメールの《水差しを持つ女》とレンブラントの《ベローナ》は日本初公開作品となります。この貴重な機会を是非ご堪能ください。

ハールレム、ユトレヒト、アムステルダムオランダ黄金時代の幕開け

17世紀初頭から、オランダの各都市において画家たちが活発に制作活動を行い、独特の絵画を発展させていきました。特に、ハールレム、ユトレヒト、アムステルダムでは、イタリアやフランスで経験を積んだ画家たちが独自の絵画を開花させていきます。序章となる本章では、当時ヨーロッパで人気を博した画家ヘンドリック・ホルツィウスや明暗技法と豊かな色彩を融合した独創的な画家アブラハム・ブルーマールトなどの作品を通して、黄金時代の幕開けを紹介します。

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アブラハム・ブルーマールト
《ラトナとリュキア人の農民》

1646年
油彩・カンヴァス、69.8×100.4 cm
ユトレヒト中央美術館

Abraham Bloemaert
Latona and the Lycian Peasants
1646
Oil on canvas, 69.8 × 100.4 cm
2573
Centraal Museum, Utrecht
Image & copyright Collection Centraal Museum, Utrecht

オランダ黄金時代

本章では、風景画、建築画、海洋画、静物画、肖像画、風俗画の順にオランダ黄金時代の歩みをたどっていきます。

II-1 風景画家たち Painters of Dutch Landscapes

17世紀のオランダ絵画で最も発展をとげたのは、風景画でした。風景画は様々なテーマで描かれ、画家たちは町の風景、夜の風景、郊外の風景などそれぞれ得意分野を中心に制作していました。ヤーコプ・ファン・ライスダール、ヤン・ファン・ホイエンなどに代表される17世紀オランダ風景画は、季節や時間で移り変わる当時のオランダの風景、自然、町の様子などを現代に新鮮に伝えています。

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アールベルト・カイプ
《牛と羊飼いの少年のいる風景》

1650-60年頃
油彩・カンヴァス、101.5×136.0 cm
アムステルダム国立美術館

Aelbert Cuyp
Landscape with Cows and a Shepherd Boy
ca. 1650-60
Oil on canvas
101.5 × 136.0 cm
SK-A-3754
Rijksmuseum, Amsterdam
Purchased with the support of the Stichting tot Bevordering van de Belangen van het Rijksmuseum

II-2 イタリア的風景画家たちPainters of Italianate Landscapes

当時、イタリアに旅し学んだオランダ出身の画家は多く、彼らはその影響を色濃く残した作品を制作しています。明るい陽光、朽ちた古代の遺跡、新鮮な青い空──オランダ風景画とは一風異なるエキゾチックな風景が描かれたイタリア風の風景画は、オランダで人気のある分野だったため、イタリアを訪れたことのない画家も様式を真似て描いていました。

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ヤン・バプティスト・ウェーニクス
《地中海の港》

1650年頃
油彩・カンヴァス、91.5×117.5 cm
個人蔵

Jan Baptist Weenix
A Mediterranean Harbour Scene
ca. 1650
Oil on canvas, 91.5 × 117.5 cm
Private Collection

II-3 建築画家たち Painters of Architecture

オランダで発達したユニークな分野のひとつである教会建築内部の絵画。建築画を得意とした画家たちは、様々な都市に建てられた教会の白い壁のシンプルな内部を、遠近法を用いて細やかな描写で描いています。この分野を得意とした画家にはピーテル・サーンレダムが有名で、本展でもその作品が紹介されます。

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ピーテル・サーンレダム
《聖ラウレンス教会礼拝堂》

1635年
油彩・板、45.0×36.0 cm
カタレイネ修道院美術館、ユトレヒト

Pieter Saenredam
View of a Chapel in the Northern Side-aisle of the St.Laurenskerk in Alkmaar
1635
Oil on panel, 45.0 × 36.0 cm
BMH s124
Museum Catharijneconvent, Utrecht
On loan from the Old Catholic Parish In de Driehoek, Utrecht
Museum Catharijneconvent, Utrecht /foto Ruben de Heer

II-4 海洋画家たち Marine Painters

世界を相手に貿易を行っていた海洋貿易王国、オランダ。海はオランダの発展や日々の生活に大事な役割を担っていました。港には大きな貿易船が停泊し、活況を呈していたことでしょう。オランダの海洋画では財力と国力を誇るかのような立派な貿易船や軍艦を描いた作品から、生活の糧として河口で釣りをする漁船を光に満ちた落ち着いた雰囲気で描いた作品まで、幅広い水辺の風景画があります。

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コルネリス・クラースゾーン・ファン・ウィーリンゲン
《港町の近くにて》

1615-20年頃
油彩・板、42.5×80.7 cm
ロッテルダム海洋博物館

Cornelis Claesz. van Wieringen
An Armed Merchantman and Other Vessels near a Harbour City, Possibly Dordrecht
ca. 1615-20
Oil on panel, 42.5 × 80.7 cm
P2828
Maritime Museum Rotterdam
On loan from the Maritime Museum Rotterdam, the Netherlands
Purchased with the financial support of the Vereniging Rembrandt

II-5 静物画家たちPainters of Still Lifes

鈍く光る銀の食器、ワインが半分つがれたガラスの杯、色とりどりの瑞々しい果物や野菜オランダ絵画の神髄、静物画には様々なものが写実的に、細密に描かれています。これらの作品には漆器や陶磁器などの珍しい贅沢品も描かれ、当時、オランダには世界の遠方から珍しい物資が集まっていたことを反映しています。実物と見紛うほどの貝、器、皮をむかれた果物などを堪能できます。

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ウィレム・カルフ
《貝類と杯のある静物》

1675年
油彩・カンヴァス、53.5×44.5 cm
財団美術館、オーフェルエイセル (オランダ)

Willem Kalf
Still Life with a Collection of Shells and a Shell Cup
1675
Oil on canvas, 53.5 × 44.5 cm
2131
Museum de Fundatie, Zwolle, Heino/Wijhe

II-6 肖像画家たち Painters of Portraits

17世紀オランダで隆盛した肖像画。多くは注文のもとに描かれました。夫婦が描かれた対の肖像画も多くあり、都市の裕福な市民たちの組合員が描かれた大規模な集団肖像画も流行しました。中流階級からの注文に応じた型にはまった様式が多い中、労働者階級などを生き生きとのびやかに描いた画家もいました。

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イサーク・リュティックハイス
《男性の肖像 (ピーテル・デ・ランゲ)》

1655年
油彩・カンヴァス
128.5×102.5 cm
ロッテルダム美術館

Isaack Luttichuys
Portrait of a Man, Probably Pieter de Lange
1655
Oil on canvas, 128.5 × 102.5 cm
11245
Museum Rotterdam
Collection Museum Rotterdam, on loan from the Erasmus Foundation

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イサーク・リュティックハイス
《女性の肖像 (エリザベート・ファン・ドッベン)》

1655年
油彩・カンヴァス
128.0×102.0 cm
ロッテルダム美術館

Isaack Luttichuys
Portrait of a Woman, Probably Elisabeth van Dobben
1655
Oil on canvas, 128.0 × 102.0 cm
11246
Museum Rotterdam
Collection Museum Rotterdam, on loan from the Erasmus Foundation

II-7風俗画家たち Painters of Scenes from Everyday Life

風俗画、というとオランダ絵画を浮かべることが多いのではないでしょうか。数々の名作が残るオランダ絵画の人気分野の一つで、代表的な画家を多く輩出した分野でもあります。ヨハネス・フェルメール、ヤン・ステーン、ピーテル・デ・ホーホなど、世界的に有名な画家の目を通して、当時の日常生活を垣間見ることができます。また、風俗画には実際の生活場面を描いているように見えて、オランダの格言や教訓を伝えている作品も多く存在するといわれています。作品を読み解く面白さが味わえる分野です。

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ピーテル・デ・ホーホ
《女性と召使いのいる中庭》

1660-61年頃
油彩・カンヴァス、73.7×62.6 cm
ロンドン・ナショナル・ギャラリー

Pieter de Hooch
A Woman and Her Maid in a Courtyard
ca. 1660-61
Oil on canvas, 73.7 × 62.6 cm
The National Gallery, London
NG794 
Bought, 1869
Credit:©The National Gallery, London

※日本初公開
※京都、東京会場のみ

ヨハネス・フェルメール(1632−1675)

1632年にデルフトで生まれました。父は宿屋の主人であり美術商でしたが、裕福ではありませんでした。彼が師事した画家は定かではなく、独学であったと思われます。1653年に聖ルカ組合に加入し、その前年の結婚を期にプロテスタントからカトリックに改宗しました。この夫婦は11 人もの子をもうけています。彼は生涯で45〜50点程度制作したと考えられています。高値で売れたのでしょうが、義母からの経済的な支援を常に必要としていました。彼は43歳で亡くなり、1675年12月16日にデルフトで埋葬されました。彼の作品は没後忘れられ、しばしば他の画家の作品と誤解されましたが、19世紀中頃にフランスの美術批評家トレ・ビュルガーがこの画家の存在を大々的に喧伝したことで再び名声を得、現在まで多くの鑑賞者を魅了しています。

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ヨハネス・フェルメール
《水差しを持つ女》

1662年頃
油彩・カンヴァス、45.7×40.6 cm
メトロポリタン美術館、ニューヨーク

Johannes Vermeer
Young Woman with a Water Pitcher
ca. 1662
Oil on canvas, 45.7 × 40.6 cm
The Metropolitan Museum of Art, New York
Marquand Collection, Gift of Henry G. Marquand,1889 (89.15.21)
Photo Credit: Image copyright©The Metropolitan Museum of Art. 
Image source: Art Resource, NY

※日本初公開

ヤン・ステーン(1626―1679)

1626年にライデンで穀物業、ビール醸造業を営む家に生まれ、ユトレヒトとハールレムで学んだことが知られています。1640年代後半にライデン出身の風景画家ヤン・ファン・ホイエンに師事し、1648年にライデンの聖ルカ組合の創立者の一人となりました。1656年には各地を転々としています。家族の度重なる死のあと、ステーンはライデンに戻り画家としての活動をつづけ、1679年に53歳で亡くなりました。ユーモアに満ちた愉快な風俗画で知られますが、肖像画、風景画、歴史画も描いていました。彼の作品には、社会に対する鋭くウィットに富んだ批評性があり、彼が当時の喜劇、大衆文学、そしてネーデルラントの古今の芸術を深く理解していたことを示しています。

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ヤン・ステーン
《恋の病》

1660年頃
油彩・カンヴァス、86.4×99.1 cm
メトロポリタン美術館、ニューヨーク

Jan Steen
The Lovesick Maiden
ca. 1660
Oil on canvas, 86.4 × 99.1 cm
The Metropolitan Museum of Art, New York
Bequest of Helen Swift Neilson, 1945 (46.13.2)
Photo Credit: Image copyright©The Metropolitan Museum of Art. Image source: Art Resource, NY

III レンブラントとレンブラント派 Rembrandt and His Circle

オランダ黄金時代の巨匠のひとり、レンブラント・ファン・レインは数々の名作を生み出し、彼の作品は現在でも多くの人々に感銘を与えています。光と影を描く独特な技法、ドラマチックな構図や描写。レンブラントは工房を持ち、そこからは弟子たちが巣立っていきました。師匠に引けを取らない見事な作品を残し、名声を得た弟子もいます。レンブラントと弟子たちの素晴らしい技法と描写を紹介します。

レンブラント・ファン・レイン(1606-1669)

1606年にライデンで生まれました。1631年頃にアムステルダムに拠点を移し、肖像画、歴史画で高い評判を得、経済的な成功をおさめます。この頃から美術品や骨董品などの蒐集をはじめ、1639年には市内に豪邸を購入しました。しかし1641年に妻が亡くなり、1640年代後半から経済的に困窮すると、1656年に破産、邸宅と蒐集品を失いました。このような苦しい状況であっても画家としての制作は衰えず、数々の傑作を生みだしました。80点以上の自画像を含む印象的な肖像画、ダイナミックな歴史画によって同時代の人々を驚嘆させました。また、多くの弟子を育てたことでも知られています。

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レンブラント・ファン・レイン
《ベローナ》

1633年
油彩・カンヴァス、127.0×97.5 cm
メトロポリタン美術館、ニューヨーク

Rembrandt Harmensz van Rijn
Bellona
1633
Oil on canvas, 127.0 × 97.5 cm
The Metropolitan Museum of Art, New York
The Friedsam Collection, Bequest of Michael Friedsam, 1931 (32.100.23)
Photo Credit: Image copyright©The Metropolitan Museum of Art.
Image source: Art Resource, NY

※日本初公開

カレル・ファブリティウス(1622-1654)

1635年頃にレンブラントの工房に入ったと考えられていますが、やがてデルフトに拠点を移しました。しかし、1654年10月12日、デルフトで起きた火薬庫爆発により32歳の若さで悲劇的な死を迎えています。彼の作品はわずかしか現存しませんが、いずれもこの画家の驚嘆すべき技量が示されています。また、ファブリティウスは、レンブラントとフェルメールというオランダ黄金時代の二人の巨匠を繋ぐ存在と見なされることもあります。レンブラントから、成熟していくにつれてより滑らかで優雅になっていく多様で豊かな筆致を、フェルメールから、不要な叙述や逸話的な細部を排除することで構図を単純化していく傾向を身につけました。

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カレル・ファブリティウス
《帽子と胴よろいをつけた男(自画像)》

1654年
油彩・カンヴァス、70.5×61.5 cm
ロンドン・ナショナル・ギャラリー

Carel Fabritius
A Young Man in a Fur Cap and a Cuirass (Probably a Self Portrait)
1654
Oil on canvas, 70.5 × 61.5cm
The National Gallery, London
NG4042
Bought, 1924
Credit:©The National Gallery, London

※日本初公開
※京都、東京会場のみ

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カレル・ファブリティウス
《アブラハム・デ・ポッテルの肖像》

1649年
油彩・カンヴァス、68.5×57.0 cm
アムステルダム国立美術館

Carel Fabritius
Portrait of Abraham de Potter, Amsterdam Silk Merchant
1649
Oil on canvas, 68.5 × 57.0 cm
SK-A-1591
Rijksmuseum, Amsterdam
Purchased with the support of the Vereniging Rembrandt

※日本初公開

IVオランダ黄金時代の終焉 Painting in the Last Years of the Golden Age

約100年ほどの間に多くの巨匠と傑作絵画を生み出したオランダ絵画の黄金時代は終焉を迎え、次の時代へと移ってゆきます。

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アルノルト・ハウブラーケン
《イピゲネイアの犠牲》

1690-1700年頃
油彩・カンヴァス、79.5×63.4 cm
アムステルダム国立美術館

Arnold Houbraken
Sacrifice of Iphigenia
ca 1690-1700
Oil on canvas, 79.5 × 63.4 cm
SK-A-4942
Rijksmuseum, Amsterdam

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