Interview 演出/塚原あゆ子さん

Q. 企画から映像化まで、『アンナチュラル』の世界観をどうやって構築したのですか?

ドラマの世界観は、台本を作る前にプロデューサーや脚本家と相談して決めます。法医学ものというジャンルだけは決まっていたので、まず金曜10時にどんな法医学ドラマを見たいかを考えました。
人が亡くなったところからスタートする話ですが、週末の夜はエンターテインメント感のあるものがいいだろうということで、死を通して未来を見つめる、今までにない法医学ドラマを作ろうとなったわけです。

連続ドラマで非常に重要になるのが、舞台です。10話を展開しやすい場所として、架空の舞台でいこうと決めました。規制がありませんし、突き詰めていく中で新しいものが生まれますからね。脚本の野木さんが熱心に取材を重ねるなかで、数年前に日本の死因究明率を上げようと、内閣府主導で専門的な研究機関を作ろうとしたけれども実現には至らなかった、ということを知ったんです。じゃあ、もしもそれが実現していたらどうなるか?みたいな発想で、不自然死究明研究所「UDIラボ」という架空の舞台ができました。

実際に法医学の先生方にお話を伺うと、できることの限界をすごく感じていらっしゃったんですよね。もっといろいろ自由にやれたらいいのにとか、法医学者の数がもっと多かったらとか、うまく組織化されていたらとか。そういう歯がゆい現実の限界を超えるのが私はエンタメだと思うんです。何でもありがエンタメではなくて、専門家の理想を混ぜて描くことが一番無理のない冒険。専門家の仕事の先に少し世界を広げることが大事なんじゃないかなって。

あとは、例えば色味はキラキラした感じなのか、それとも黒味ベースでミステリアスな感じなのか、みたいなこともみんなで話します。だから、いろんな雑談の中にすでに種があって、それが徐々にドラマの世界観として構築されていって台本になるという感じ。
プロデューサー陣も野木さんも私も、しゃべっていると話題がけっこう今の社会問題になるんですよ。それで、今自分たちにできることがあるんじゃないかってなって、仮想通貨や雑居ビル火災を題材にしたら、すぐに似たようなことが実際に起こってしまった。フィクションですが、ネタは常に現実社会に近いところで考えていますね。

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Q. 10話を通して、レギュラーキャストの皆さんからどんなことを感じましたか?

石原さんは最初、役を迷っていらしたんです。私はこの迷ってる彼女ごとミコトを作っていくんだなと思って、その作業は非常に楽しかったですね。そして、全体の中での立ち位置を誰よりも早く見つけたのも石原さん。脚本家が目指すものを理解するって実はそんなに簡単なことじゃないし、全員のイメージが最初から統一することなんてほぼないんですね。でも石原さんは、感情を上げ過ぎず下げ過ぎない、淡々と誠実に仕事を進めるミコト、つまりプロの日常の姿を早い時点でつかみました。すると皆さんも、自分のキャラクターよりもむしろUDIの日常を作る作業の方が先だと気づいたんです。そこを今回は非常に骨太に作り込んでいきました。
石原さんは台本の世界を理解するところから始まって、常に前向きにストレートに作品に入って来る役者さん。彼女の疑問や提案に私自身ハッとして背筋が伸びることもあります。天真爛漫であり、プロデューサーやディレクターの目線も持っている。大きなところで座長ですね。彼女とドラマを作っていくのはすごく面白いです。

井浦さんは、体の中に役を入れるというか、中堂としてその場にいることをすごく理解している方。そこに存在する芝居って、一番難しいんですよね、セリフがなければないほど。それを井浦さんはどこにいても中堂を見事に表現されている。たぶん感覚を研ぎ澄ますことに真摯に取り組まれているからできるんだと思います。非常に感銘を受けました。

窪田さんは、周りから求められていることに非常に敏感です。そして、それを器用に演じられる素晴らしい才能を持っている。『Nのために』などでご一緒して、どんどんうまくなっているなと感じていますが、私は年齢を重ねた彼をすごく見たいです。器用さがなくなって、積み重ねた人生経験が吐かせる言葉だとか、彼だけが表現できるもの。それがすごく楽しみです。

市川さんは、とても場を明るくしてくれる方。最初にお会いした時から超オチャメだし、キャイキャイっとした感じでした。でも、根っからそういうタイプというよりは、ずっと東海林を意識しているのかもしれません。そうだとしたら私は騙され続けたわけで(笑)、もしも全く違う役でご一緒したらどんな顔を見せてくれるだろうと思うと、私は一生を通して彼女を見ていきたい。今後続々お仕事ご一緒したいですね。

松重さんは、『重版出来!』の編集長のようないい感じのおじさんをなんとなくイメージしていましたが、このドラマに白髪でお入りになったんで驚きました。たぶん、『重版出来!』と同じ野木さんが脚本で私が演出だから、今回は違う見え方を考えてくださったんじゃないかなと。そう思うと尊敬が止まりません。そして、頼もしくてかわいらしい唯一無二のUDIラボの所長を作ってくださった。度量の大きさに敬服します。大好きです!

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Q. ゲストを含め出演者から絶大な信頼のある塚原監督。演出で特に意識していることは?

演出の仕方というよりも、私は台本のこの言葉はなぜ選ばれたのかにすごく引っかかる人間なんです。なんでこのセリフなのかをすごく考えるんですよね。例えば、実際に身内や親しい人の葬儀で故人を語る時に、その言葉には一緒に過ごした時間や愛や無念さが込められますよね?きっと腹の底から出てくる言葉だと思うんです。だから、そういうセリフの言い方に軽さがあったら絶対にダメ。
私自身がまず言葉の意味を考えて、もしも現場で役者さんの言い方が軽ければ指摘して、意味を考えてもらってから表現してもらいます。もちろん、このセリフで本当にいいのかなとも考えますし、役者さんがキャラクターとして言いにくければ、言いやすい言葉に変えればいいわけです。それが台本を生かすことだと思うんですよ。

そういう意味では、私は役者さんをすごく信頼しています。私、ドラマ作りにおいて“領分”ってすごく大事だと思うんですよ。演出家の領分とか、役者の領分、編集マンの領分とか。現場は役者の領分なんです。台本という二次元のセリフを飲み込んで、三次元にして吐き出すのは役者さんにしかできませんから。そこに、こちらが思ってもいなかったような深みを感じたいじゃないですか。だからセリフの解釈が正しくないと思った時は指摘しますが、あとはほとんど自由にやっていただいています。
演出家である私の領分は、役者さんが芝居をしやすいようにしつらえを整えること。部屋の雰囲気とか、いろいろなことを撮影前にできるだけ役者さんとお話します。UDIのオフィスも、「席は決めないで、どこに座ってもいいようにした方が自由度があると思うんだけどどう?」って最初にみんなに聞いて、みんなが納得したので、そのスタイルの中で芝居をしてもらっています。
これまでハッとしたりゾクッとするセリフや表情をたくさん見せてもらって、役者さんってほんとすごいな、尊いなって思います。

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Q. ついに最終話。事件の顛末以外で監督が特に見てほしいところはどこですか?

UDIの人たちそれぞれの結末!彼らはこれまで闇に葬られたであろうたくさんの事実を突き止めてきましたよね。その一つ一つを経験し、乗り越えてきた彼らにしかできない明日の迎え方っていうのかな、明日につながる日常ですね。ミコトの結末ではなくて法医学者・ミコトの結末があるし、法医学者・中堂の結末があるし、将来に悩んでいた六郎の結末、臨床検査技師・東海林の結末、所長・神倉の結末。五者五様の結末を野木さんがとても真摯に描いてくれて、役者さんたちがうまく表現してくれています。
よくある一件落着的なラストではなく、UDIらしい結末になっているので、事件の謎解きと共にそこをぜひ見ていただきたいです。

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