2019年1月スタート毎週日曜よる9時

グッドジャッジ

vol.7あの作品は自分がモデルかも… どうすればいい !?

グッドワイフをご覧のみなさん,第7話はいかがだったでしょうか。壮一郎パートはどんどん進展していっていますが,その一方で,杏子たちのもとには絶えず事件が持ち込まれてきますね。今回は勝手に映画のモデルにされた著名人からの相談でした。もし皆さんが同じようなトラブルに巻き込まれた場合,どんな風に対抗すればよいでしょうか。今回のストーリーに沿って少し解説しましょう。

まず 「相手に対する請求として何ができるか?」 というところからですね。実在の人物が,特にドキュメンタリーに近い作品のモデルにされてしまった場合,作品を見た人はその作品の内容がモデルになった人物に関する 「事実」 だと思ってしまうおそれがあります。そうすると,
仮にその人物に関する本当のこと (とりわけ,年齢・住所,家族構成や趣味などのプライベートな部分) を作品に取り入れていた場合は,モデルにされた人物のプライバシー権が侵害される可能性がありますね。
逆に,全くの嘘っぱち,例えば 「こんな悪事を働いた」 といったような描かれ方をしていた場合は,モデルとされた人物に対する名誉棄損になる可能性があります。さらに…
今回のようにモデルとされたのが著名人で,例えば 「ある炭酸飲料が好き」 といったような形で,作品の中で特定の企業や商品と結び付けられるなど,勝手に宣伝に利用されたような場合は,その実際の著名人が持つ 「宣伝広告力」 の不当な利用にあたるとされることがあります(これを「パブリシティー権」の侵害といいます)。

以上をまとめると,第7話のケースで剣持社長 (浜野謙太さん) の主張として考えられるのは,①プライバシー権の侵害②名誉棄損③パブリシティー権の侵害ということになるでしょう。そして,こういった法的な権利の侵害が認められた場合は,皆さんもご承知のとおり,民事上の損害賠償の対象となることはもちろん,侵害状態の除去 (=映画の公開中止) を求めること,さらに,特に名誉棄損に関しては,名誉回復のための謝罪や訂正などの措置を求めることが法律上可能になります。剣持はこれを叶えるべく,杏子たちに依頼したんですね。

では,これらの主張を裁判所に認めてもらうために,法廷で何が必要になってくるのか。まずは,①「自分がモデルであることの証明」 ですね。作品がフィクションである場合,「ココとココが違う,だから全くの別人物だ」 と反論されることがよくあります。杏子たちが実際の剣持の生活や習慣などをもとに,映画と比較検証しているシーンがありましたが,まさにこのシーンは,上記の請求を行うための大前提として,まずは 「誰が見ても剣持がモデルである」 と客観的に立証しようと準備していたわけです。
そして次に,②こうした客観的な一致をもとに,これらが 「ワザとやられたものだ」 という立証を進めていくことになります。上記の各請求を認めてもらうためには,権利侵害が偶然起こったのではなく,故意又は過失によって起こされたもの,つまり 「わざとやった (少なくともうっかりやってしまった)」 状態だと認めてもらうことが必要だからです。劇中では二見が 「いやー偶然ですよ」 なんて言い訳していましたが,これは 「たとえ誰がどう見てもモデルが剣持であっても,わざとではなく偶然である」=「自分に故意又は過失はない」 という意味合いを含む反論だったわけですね。

さて,劇中では,二見が映画をヒットさせるためにわざとやったことを認め,敗訴に近い和解という形で早々に白旗を挙げました。実際はこんなにうまくいくケースは珍しく,大抵はかなりの時間と手間がかかる分野です。多田が映画の隠れスポンサーを口説き落としたことが突破口になったわけですが,やはりこの男,恋愛は奥手でも (笑) 弁護士としては非常に狡猾なところがありますね。私も見習わないと !?

弁護士:國松 崇

元 TBS 社員弁護士。現在は東京リベルテ法律事務所に所属し,主にエンターテインメント分野の取引法務や訴訟対応等を中心に,多くの企業・個人に対し,幅広くリーガルサービスを提供している。また,刑事弁護人としての活動も引き続き精力的に行っている。『 99.9-刑事専門弁護士- シリーズ 』 など,多くの TBS ドラマにおいて,脚本作りや法廷シーンの演出など全体の監修を担当。

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