77年前の12月、日本が始めた太平洋戦争は、他国の住民を巻き込み多くの命を奪った。その責任を負わされ、戦犯という名のもとに死刑になった一人の青年がいる。木村久夫は経済学者を目指し京都大学に入学したばかりの、いわゆる学徒兵だった。
シンガポールの刑務所で、木村は無実を訴える遺書を書いた。それは、愛読していた哲学書の余白を埋め尽くすように書かれていた。
「私は何等死に値する悪はなした事はない」
「私は彼の責任をとって死ぬ」
問われた罪は、終戦間近のインド洋の島で現地住民を拷問、処刑、虐殺したというものだった。通訳だった木村は死刑、しかし木村に命令する立場にあった上官は無罪となった。この戦犯裁判は明らかに不合理だと、木村は訴える。
「法廷に於ける真実の陳述をなす事を厳禁され――(遺書より)」
禁じられた真実の陳述とは?
TBSは戦後、木村の法要に集まった遺族や同僚が証言する様子を放送していた。そこへ、命令を下したとされる上官本人が謝罪に訪れる…。なぜ命令に従った末端の兵士、一個人が犠牲にならなければならなかったのか。後世の私たちに、木村が獄中から訴えた戦争の理不尽さを考える。
ディレクター:山本杏奈(TBSテレビ報道局)