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サウジアラビア・リヤド第45回世界遺産委員会リポート

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9月19日(火) サウジアラビア・リヤド世界遺産委員会リポート 第六回

 サウジアラビアの首都リヤドで行われている第45回世界遺産委員会。新しい世界遺産を決める審議も三日目を迎え、10の世界遺産が新登録されました。その中から、いくつか注目すべきものを紹介したいと思います。

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サウジアラビアの首都リヤドで行われている世界遺産委員会

・ルワンダに初めての世界遺産

 まずはアフリカのルワンダに初めての世界遺産が誕生しました。
 自然遺産の「ニュングェ国立公園」。手つかずの熱帯雨林の森や湿原、草原などをもつ広大な自然公園です。チンパンジーやゴールデンモンキーなど、絶滅が危惧される貴重な動物たちの生息地としての価値が認められました。諮問機関IUCN(国際自然保護連合:International Union for Conservation of Nature)の事前評価は「追加の情報が必要」という世界遺産入りを見送るものでしたが、多くの委員国から「世界遺産に登録すべき」との声が上がり、新登録となりました。90年代の紛争で多くの国民を失い、深く傷ついたルワンダを支援したいという各国の思いが感じられました。

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初めての世界遺産登録が決まって喜ぶルワンダ代表団

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ニュングェ国立公園(ルワンダ)1

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ニュングェ国立公園(ルワンダ)2

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ニュングェ国立公園(ルワンダ)3

・プラネタリウムが世界遺産に!

 変わり種としては、初めてプラネタリウムが世界遺産になりました。それが、オランダの文化遺産「フランエーケルのエイジンガ・プラネタリウム」です。
 フランエーケルという街で、18世紀にアマチュア天文家のエイセ・エイシンガが自宅に作ったもの。太陽系を表していて、居間兼寝室の天井と壁に組み込まれています。現在も動くものとしては最古の機械式プラネタリウムだそうです。
 今は「王立エイセ・エイシンガ・プラネタリウム」として一般公開されています。どんな動きをするのか、見てみたいものです。

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フランエーケルのエイジンガ・プラネタリウム(オランダ)1

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フランエーケルのエイジンガ・プラネタリウム(オランダ)2

・新しい世界遺産の形:「記憶の場」

 世界遺産は時代と共に、新しいテーマや概念を生み出してきました。たとえば90年代初頭に生まれた「文化的景観」というテーマ。自然の地形を生かして人が作り上げた景観について、「自然と人間の共同作品」としての価値を認めることになり、たとえば棚田などが世界遺産に登録されるようになりました。今では、「〇〇の文化的景観」という世界遺産がたくさんあります。
 19日の世界遺産委員会では、「記憶の場」という従来はなかったテーマの世界遺産が初めて登録されました。それがアルゼンチンの文化遺産「ESMA博物館と記憶の場―かつての拘禁、拷問、虐殺の秘密収容所」です。1970年代から80年代にかけて、アルゼンチンの軍事政権が自国民への大弾圧を行い、死者・行方不明者は3万人におよぶとされます。ESMAとは元海軍技術学校(Escuela de Mecánica de la Armada)の略。弾圧の舞台になった秘密収容所のひとつで、現在は博物館になっています。こうした人類にとって「忘れがたい記憶」の舞台となった場所を、「記憶の場」として世界遺産にしていくという方針が打ち出され、その最初のケースとなりました。
 登録が決まった瞬間、アルゼンチン代表団のメンバーは涙を流していました。さらに現在のフェルナンデス大統領もビデオで特別にスピーチを行い、軍事政権時代の傷跡が深く残っていることがうかがえました。

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初めて記憶の場としてアルゼンチンの世界遺産が決まった瞬間の議場

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記憶の場として世界遺産登録が決まり涙ながらに謝辞を述べるアルゼンチン代表団

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特別にビデオスピーチをしたアルゼンチン・フェルナンデス大統領

 世界遺産の場合は、特に20世紀初頭以降の「紛争(これには戦争だけではなく、抵抗運動、虐殺や弾圧など大規模な人権侵害も含まれます)」にまつわる場所を「記憶の場」の対象とすることになっています。
 たとえば、ウクライナに侵攻したロシア軍が行った虐殺。その舞台となった街ブチャも、この「記憶の場」という新しいテーマの導入によって世界遺産になる可能性が出てきたのです。

 この日は、他にも7つの新しい世界遺産が誕生しました。

 タイ中部で、6 世紀から 10 世紀にかけて栄えたドヴァーラヴァティー帝国の遺跡、「古代都市シーテープとドヴァーラヴァティー王国の遺跡」。

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古代都市シーテープとドヴァーラヴァティー王国の遺跡(タイ)

 トルコの「中世アナトリアの木造多柱式モスク群」。

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中世アナトリアの木造多柱式モスク群(トルコ)

 アメリカ先住民が土で作った建造物、「ホープウェルの儀式用土塁群」。

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ホープウェルの儀式用土塁群(アメリカ合衆国)

 イタリアの自然遺産、「アペニン山脈北部の蒸発岩カルストと洞窟群」。

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アペニン山脈北部の蒸発岩カルストと洞窟群(イタリア)

 南米に入植したユダヤ人=ヨーデンサヴァネの足跡をしめす、スリナムの文化遺産「ヨーデンサヴァネの考古遺跡 : ヨーデンサヴァネの入植地とカシポラクリーク墓地」。

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ヨーデンサヴァネの考古遺跡・ヨーデンサヴァネの入植地とカシポラクリーク墓地(スリナム)

 ギリシアのグランドキャニオンともいわれる「ザゴリの文化的景観」。

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ザゴリの文化的景観(ギリシア)

 カナダの化石地帯「アンティコスティ」。

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アンティコスティ(カナダ)

 またポルトガルの世界遺産「ギマランイスの歴史地区」が拡張登録され、「ギマランイスの歴史地区とコウルス地区」になりました。

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ギマランイスの歴史地区とコウルス地区(ポルトガル)

明日も、引き続き新しい世界遺産候補の審議が続きます。

「世界遺産」プロデューサー 堤 慶太

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