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サウジアラビア・リヤド第45回世界遺産委員会リポート

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9月14日(木) サウジアラビア・リヤド世界遺産委員会リポート 第一回

・4年ぶりの世界遺産委員会へ

 ユネスコの「世界遺産委員会」は、世界遺産にとって最も大事な国際会議です。新しい世界遺産を決めるのも、すでに世界遺産になっているものの保全状況をチェックし、場合によっては危機に瀕している世界遺産として「危機遺産」に指定するのもこの会議。開催される場所は毎年変わるのですが、年に一回、世界遺産のある都市で開かれるのが通例です。
 しかし、ここ数年はまともな形で開催されてきませんでした。2020年の会議はコロナ禍のため延期。2021年は中国・福州が開催都市でしたが、やはりコロナ対策のためオンラインで行われました。2022年はロシアのカザンで開催される予定でしたが、ウクライナに侵攻したロシアでの開催に反対する国が多く、またまた延期。結局、ロシアが辞退し、今年2023年はサウジアラビアの首都・リヤドで開かれることになりました。実に4年ぶりの、正常な形で行われる世界遺産委員会となります。
 コロナ禍以前は毎年、この国際会議にオブザーバー参加してきた番組にとっても、やはり4年ぶりの現地参加。開催地リヤドでの世界遺産委員会の様子を、現場からリポートしていきます。

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暑さで人気もまばらなキング・ハーリド国際空港

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議場となったプリンス・スルタン・グランド・ホール

・気温40℃超え!猛暑のリヤド

 リヤドの玄関口、キング・ハーリド国際空港に到着して外に出ると刺すような日差し。最高気温は連日40℃を超える猛烈な暑さです。ただしリヤドは内陸にあり乾燥しているので、日本の夏のような蒸し風呂状態ではありません。
 世界遺産委員会の会場になっているのはサウジアラビア最初の超高層ビル、アル・ファイサリア・タワーです。首都リヤドのビジネス街にあり、高さ267メートル、44階建て。池袋のサンシャイン60よりも27メートル高いビルです。このタワー内にあるホテルの巨大なバンケット・ルーム、「プリンス・スルタン・グランド・ホール」が世界遺産委員会の議場です。
 世界遺産委員会は21カ国の委員国によって構成されますが、新しい世界遺産にノミネートしている国など他国の政府団も参加するので、1000人を超える規模の国際会議となります。スーツ姿だけでなく、各国の民族衣装を着た人も多く、グローバル感たっぷり。
 サウジアラビアの民族衣装を着た若い男女が各所にいて、受付や案内など会議参加者をサポートしています。多くが大学生でボランティア参加しているとのこと。サウジアラビアに詳しい人に聞くと、かつては女性がこうした場所で働いている姿は見なかったそうです。社会で人と接触する仕事は男性が担い、公共の場はもちろん、ショッピングモール、女性用下着売り場の店員までみんな男性だったといいます。それが、今回の会場で働いているスタッフの半分ほどが若い女性。しかも仕事をテキパキこなしているのは、どちらかというと女性スタッフの方・・・サウジアラビアでの女性の社会参加は劇的に進んでいるようです。

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世界遺産委員会の会場があるアル・ファイサリア・タワー

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民族衣装でボランティア参加しているサウジアラビアの若者

・「水の都」ヴェネツィア、危機遺産入りを回避

 世界遺産委員会自体は9月10日に開幕。番組が参加したのは14日で、この日から世界遺産にすでに登録されているものの保全状況についての審議が始まりました。
 注目は「水の都」ヴェネツィア。文化遺産の諮問機関であるICOMOS(イコモス)が、「危機遺産にするのが相当」との事前勧告を出していたからです。気候変動の影響により高潮で街への浸水が頻発、観光客が多すぎてその弊害が出ているなど、世界遺産の価値が損なわれる状況になっているのに対策が不十分だとICOMOSは判断したのです。今回の世界遺産委員会では、こうした事前勧告の可否について、日本を含む21カ国の委員国の政府代表団が討議をしていきます。
 この日の最後に、問題のヴェネツィアが議題となりました。危機遺産入りに、まず反対したのが日本。来年から観光客から入場料を取るなど、すでに対策が計画されているので、すぐに危機遺産にはせず、対策実施後の状況を見定めるべきだと主張したのです。これに多くの委員国が賛成し、ヴェネツィアの危機遺産入りは回避されました。
 ヨーロッパの都市の中では、2017年にオーストリアのウィーン旧市街が危機遺産になっています。こちらは計画中の都市開発が、古都の景観を損なう恐れがあるというのが理由でした。開発にしろ、観光にしろ、街が生きていくためには必要なものでもあり、世界遺産としての価値を守ることとの両立は綱渡りのようなところがあります。
 他にも7つの世界遺産について議場で討議が行われましたが、危機遺産になるものはありませんでした。明日15日も、すでに世界遺産になっているものの保全状況について審議が続きます。

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ヴェネツィアの危機遺産入りの勧告をしたICOMOSの説明

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世界遺産委員会でのヴェネツィアの審議

「世界遺産」プロデューサー 堤 慶太

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