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2023年6月18日放送「リオ・ピントゥラスの手の洞窟」

858もの手が並ぶ洞窟壁画の謎

南米アルゼンチンの南端に位置するパタゴニア地方にある世界遺産「リオ・ピントゥラスの手の洞窟」。その洞窟の壁にある多数の手形は、誰がいつ、何のために残したものなのか。そんな手形の謎について、取材を担当した内田ディレクターに話を聞きました。

手形を残してこの地から消えた人々

9300年前、この地に暮らした人々は自分たちの存在の証と繁栄の祈りのために、洞窟の壁に手形を残したのです。

──「リオ・ピントゥラスの手の洞窟」とは、どのような世界遺産なのでしょうか?

内田ディレクター(以下、内田):南米アルゼンチンの南部、パタゴニア地方を流れるピントゥラス川のほとりにある文化遺産です。「手の洞窟」とは、858ものおびただしい数の手の跡などが残された洞窟壁画で知られています。

──いったい、いつ誰が描いた壁画なのでしょうか?

内田:手形は、古いもので9300年前ごろ、新しいものでは530年前のものがあると言う研究者もいます。これらの手形を残したのは、かつてこの土地に暮らしていた狩猟採集民、テウエルチェの祖先です。テウエルチェは19世紀に南米へやってきた西欧人によって虐殺されて、この地にはもう残っていません。なので、壁画をどのようにして描いていたかなど、多くの謎が残されています。そんな謎の1つが、858ある手形のうち、800以上が左手のものであることです。

おびただしい数の手形が残された「リオ・ピントゥラスの手の洞窟」。「リオ・ピントゥラス」とは、手の洞窟の前を流れるピントゥラス川のことです。

──左手ばかりとは確かに不思議ですね。

内田:はい。ただ、調査によってどのようにして描いていたかが推測されています。番組の中でその方法を再現した映像をお届けします。まず洞窟の近くで採れる酸化鉄を含んだ土を砕き、水と動物の油を合わせて顔料を作ります。それを口に含み、動物の骨をストローのようにして吹き付けるのです。手形の多くが左手なのは、利き手の右手で骨を持って吹き付けたためではないかと言われています。

手形を描いた顔料は、手の洞窟からほど近いティエラ・デ・コローレスという場所で採れる土などから作られていました。

──なるほど、利き手と反対の手の形が残されたのですね。それにしても、いったい何のためにこのような壁画を残したのかが気になります。

内田:この洞窟を神聖な場所として、自分たちが存在した証や繁栄を願う意味のために手形を残したと推測されています。壁画には手形のほかに、狩猟の対象だった動物なども描かれていて、狩猟の方法を伝承する目的もあったようです。

──彼らはどんな動物を狩っていたのでしょうか?

内田:ニャンドウという飛べない鳥や、固い皮膚を持つアルマジロ、そしてラクダ科の哺乳類であるグアナコといった現在でもパタゴニアに生息している動物が描かれています。中でもテウエルチェの祖先にとって重要だったのがグアナコです。壁画にはグアナコと一緒に狩りをする人や道具も描かれています。また妊娠したグアナコも描かれており、繁殖を願っていたのではないかと考えられています。

洞窟の壁には、手形のほかにグアナコなどの動物の姿も描かれています。

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