特集

2019年9月15日「古代都市チチェン・イツァ」

マヤの神が住む泉 セノーテに差す光の秘密

「チチェン・イツァ」は、メキシコ・ユカタン半島北部にある古代都市の遺跡です。この世界遺産は、ピラミッドをはじめさまざまな建造物で知られ、大勢の人が訪れる人気の観光地でもあります。しかし今回は、旅行者が滅多に行かないジャングルの奥で10年前に発見された“泉”にスポットをあてて取り上げます。これまで数々の遺跡の取材に取り組んできた天野ディレクターに話を聞きました。

カメラが捉えた 光が降り注ぐ奇跡の瞬間

マヤの人々の生活を支えた水源「セノーテ」。チチェン・イツァにあるセノーテの中でも、今回取り上げるのは、10年前に発見された「オルトゥン・セノーテ」です。ほかのセノーテと何が違い、なぜ注目されているのかをご紹介していきます。

──今回の「チチェン・イツァ」は、メキシコを代表する世界遺産の1つで、番組でも何度か取り上げられてきたものですね。

天野ディレクター(以下、天野):はい、チチェン・イツァは、ユカタン半島北部のジャングルにある遺跡です。ここは、古代マヤ文明の後期の時代に栄え、およそ1000年前の最盛期には40000もの人々が暮らしていました。それだけの大都市らしく、さまざまな遺跡が残っています。最も有名なのは町の中心にある「ククルカンのピラミッド」ですが、今回の番組で中心になるのは「セノーテ」と呼ばれる泉です。

ピラミッドで有名な古代マヤ文明の遺跡「チチェン・イツァ」は、メキシコ・ユカタン半島北部のジャングルにあります。

──セノーテとはどういった泉なのでしょうか?

天野:セノーテとは、ユカタン半島の石灰岩の土地が雨水によって侵食されてできた洞窟に水がたまってできた天然の井戸のことで、マヤ人にとって貴重な水源だったのです。チチェン・イツァの周囲にも、重要なセノーテがいくつかあるのですが、今回は「オルトゥン・セノーテ」と呼ばれるものを中心に取材しています。このセノーテは、ピラミッドから西へ2.5キロほど移動したところにあり、2009年に水中考古学者のギジェルモ・デ・アンダ博士が発見しました。一般的なセノーテは、陥没によって地上に丸い穴のままなのですが、ところがこのオルトゥン・セノーテの口は、石灰岩が削られるなど、人の手が入っていて長方形になっているのが特徴です。

天然の井戸、セノーテはユカタン半島に約5000カ所ありますが、一般的には丸い穴が地上に開いています。オルトゥン・セノーテの口は、石灰岩を削って四角く作られています。

──なぜ、そのように手が加えられたのでしょうか?

天野:このセノーテ自体が天体観測の装置として利用されたと考えられています。古代マヤ文明は、天文学が非常に発展していました。彼らは、星や太陽の動きを詳細に観測して、暦を読んでいたようです。そこで重要だったのは、太陽が真上を通過する日付でした。チチェン・イツァの地域では5月23日と7月19日の2日で、オルトゥン・セノーテの入り口はその日に洞窟内にまっすぐ光が差し込むように作られているのです。取材では、その7月19日、実際にオルトゥン・セノーテの中で撮影をしました。

オルトゥン・セノーテを発見したギジェルモ・デ・アンダ博士の協力のもと、撮影は行われました。セノーテの内部へは、1人ずつロープで降りていきます。

──たった1日のチャンスにかけた撮影だったということですね。

天野:1日どころか、チャンスは7月19日の昼の数分の間だけなのです。そもそも撮影のためには、セノーテの中に降りなくてはならないのですが、内部は水面まで25メートル、さらにその下に水深45メートル、直径30メートルの巨大なドーム状の空間です。入り口に立てた支柱からロープで、まずはゴムボート、それから人を下ろしました。ちょうど私がロープで降りているときに、雲間から光が差し込み始め、その光の中を下っていきました。それまで暗かったセノーテの中の空間が照らされて見えてきたのは、鍾乳石と木の根が垂れ下がっている、不思議な空間でした。いよいよ太陽が真上に来たとき、セノーテの中に垂直の光の柱が現れました。さらに、ダイバーによる水中撮影も行いました。セノーテの澄んだ水の中に、光の柱がまっすぐ20メートル以上伸びる様子も映像に収めることができたのでぜひ放送で観てほしいです。

セノーテの内部は、直径30メートル、水面からの高さ25メートルの巨大なドーム状の洞窟です。オルトゥン・セノーテの真上を太陽が通ると、垂直に立つ光の柱が内部に現れました。実際に、光が差し込むのはほんの数分でした。

──本当に奇跡の瞬間だったのですね。

天野:まさにそうでした。太陽が真上を過ぎてしばらくすると、また曇って雨が降りだしましたから、運がよかったですね。

セノーテの水は透明度が高いため、差し込む光が水中にも伸び続けていました。深さ20メートル以上にも光が届いていました。

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